デルメ食トレmagazine 第11弾(強豪校の身体づくり) 有田工業高等学校
3年で春夏3回の甲子園
食事と保護者サポートで成功へ
2年ぶり4回目の甲子園出場を果たした有田工業高校。その成功の裏には、6年目になる食トレと、成長を可視化できるトレーニング、保護者の強力なサポートがあった。「親の理解と協力が鍵」と断言する梅崎信司監督の指導理念を取材した。
1979年生まれ、佐賀県出身。佐賀東高校、日本体育大学、川口球友クラブで活躍。捕手。佐賀東高校、伊万里農林高校、塩田工業高校(現・嬉野高校)を経て2018年から現職。
「身長―100」が目標 朝食を見直し、体重増
今夏の甲子園で滋賀学園(滋賀)と開幕戦を戦った有田工業。敗れはしたが7回まで4対4と接戦を展開した。梅崎信司監督はコロナ禍に翻弄された22年甲子園をふり返り「うちは進路がほぼ就職なので、高校で野球を終える者が多い。今大会は甲子園100周年、開幕試合で江川卓さんの始球式もあり、思い出深い甲子園になりました」と話した。
過去3年で春夏3度の甲子園出場。強さの秘訣は6年前に始めた食トレにある。選手たちは「身長―100」を目指し3年がかりの増量計画に取り組んでいる。レギュラーの大古場彩斗(3年)は朝ごはんの重要性を見直し18㎏の増量に成功した。ごはんだけに頼るのではなく、例えばごはん(700g)にプラスして、納豆、卵、乳製品、果物、焼き魚(または肉)と、バランスを考えて食べるようになった。体重が増えたことで身体の使い方にパワーがつき、打球速度が増したという。佐賀大会初戦、早稲田佐賀戦では重要な場面でタイムリースリーベースを放った。
梅崎監督は「保護者も同席して、チーム全体で食育セミナーの栄養学を学べたことが大きい。家庭でバランスのいい食事をとることで効率的に増量ができたうえ、除脂肪率が増して打撃の力だけでなく、反射神経や瞬発力など、総合的なパワーがついた。試合を勝ち抜くためのパフォーマンスが向上しました」と語る。
「ビッグ3」の筋力トレ
守備力と持久力を強化
食事と並んで、チームが重要視しているのが筋力トレーニングだ。特に近年は「ビッグ3」と呼ばれるデッドリフト・スクワット・ベンチプレスを中心に強化。ビッグ3の合計重量が「400㎏」を超えることが一つの基準となっている。数値を目指した筋トレは筋力だけでなくスピード感ある守備力や機動力を生み出している。
「筋力がアップしたことで、スタミナ負けしない身体、夏の大会でもバテにくい身体になりました。うちはもともと長打を打てる選手がいるわけではなく、打てなくても勝てる野球がスタイル。低く、強い打球をしぶとくつなぎます。佐賀大会の準決勝、決勝は1点差での勝利でした。スタミナがついたお陰で、終盤まで集中力を保つことができたのだと思います」と話す。
今年から導入された新基準バットによりフライが減り、打球がゴロになるケースが増えたため、守備力の向上が不可欠になっている。選手たちは、基礎的なゴロ処理や正確なスローイングの技術を磨きながら、食トレとトレーニングによってパワーとスピードを兼ね備えた選手へと成長している。
梅崎監督は、強豪校としての地位を築くために、最も重要な要素の一つは「保護者のサポート」だと考えている。2018年、本格的な食トレを始めるにあたり、保護者たちに理解と協力体制をお願いした。有田工のほとんどの選手は自宅から通っているため、保護者の前向きなサポートが、選手の成長に大きくかかわってくるからだ。
「今の時代の子は、自宅に帰るといろいろな話を親とするんです。愚痴や悩みもあるでしょう。そのときに、話を聞き、背中を押してあげる保護者であってほしいとお願いしました。親の言葉ひとつで選手は自信を取り戻し、グラウンドに戻ることができるからです」。
約10kg増量し野球がもっと楽しくなった!
食トレを始めて一番変わったのは、身体が大きくなったことです。入学当初より約10kg体重が増え、筋トレでは持てる重量が増えるたびに楽しくなり、プレーでは球速が上がり飛距離が伸びることで、野球が一層楽しく感じられるようになりました。食事面では、脂質を控え、緑黄色野菜を中心にバランスの良い食事を心がけていました。両親にはごはんの量やメニューの工夫でサポートしてもらい、とても感謝しています。食トレを通して、頑張ったことは無駄にはならないことを1番実感しました。
今年のチームは平均体重が10.7kg増加し、入学時は普通の体格だった選手たちが、2年間で大きな成長を遂げました。特に昼の弁当が見事で、保護者の協力が選手の身体づくりに大きく貢献しています。
2年前の甲子園で見て、感じた景色も、選手たちの高い目標意識を育てました。常に甲子園を意識し先輩たち以上の身体づくりを目指した結果、体重、除脂肪体重ともに2㎏アップ。保護者、選手、指導者の三位一体の努力が、3年間で3度の甲子園出場に繋がりました。
家庭での支援が選手の成長を後押し
有田工の保護者サポートは家庭内だけにとどまらない。休日になると父親たちが練習場の草刈りや、施設の修繕などを行い、選手たちが安全に練習に打ち込める環境づくりを一体となって行っている。「その姿を選手たちがグラウンドで見ることで、より頑張ろうと思うはずです」と梅崎監督は言う。
「保護者の熱意と協力体制があるからこそ、ここまで結果を出せているのかもしれません。食トレひとつするにもお金がかかります。選手に親への感謝の心が自然と芽生えることも、チーム強化になくてはならない重要なピースです」。
世界的なブランド陶器「有田焼」の地元にある有田工。文科省の施策「地域みらい留学」がスタートし、セラミック科とデザイン科の生徒が補助金を受けながら陶芸を学べるようになった。全国に生徒募集ができたことにより、野球部にも県外から2人が入学し、レギュラー入りを狙っている。新チームには、1年生ながら甲子園のマウンドを経験した田中來空(1年)を筆頭に、11人の甲子園経験者が残っている。「まだまだ発展途上のチームですが、競争しながら成長して欲しいですね」。
チームと保護者が一体となり「常勝軍団」を目指す。甲子園で勝てるチームづくりへの挑戦は続く。
ごはんの量が倍増し、野菜も自分から食べるように
Q.息子さんの食事の傾向は?
A.入学時は量も普通で好きなものを好きなように食べていました。食トレ後はまず白米の量が倍増しました。朝は味噌汁とともにどんぶり一杯、お弁当はおかず込みで1kg、補食に大きなおにぎり2個。夕食はご飯をどんぶり2杯。朝食をしっかりとるようになってから体重が増え、野菜も自分から食べるように
Q.全国の保護者にメッセージを。
A.冷凍野菜などを利用し、無理をせずに続けてください。お米をたくさん食べれば体重も増え、トレーニングで瞬発力も維持できます。
文:樫本ゆき 写真:川崎賢大
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