食トレmagazine 第10弾(公立学校特集) 鳴門高校
厳しい鍛練と食生活で
甲子園一のたくましさへ成長
全国で唯一、県王者の座を一度も私立へ譲っていない徳島県で、圧倒的な存在感を放つ鳴門高等学校。2007年に新監督が就任してから甲子園出場12回。うち3度は8強入りしている。そんな公立の雄に、大舞台で爪痕を残すためのヒントを探る。
「私高公低」打ち砕く伝統の打線復活
甲子園の優勝旗を公立高校が手にしたのは、春は2009年の清峰(長崎)、夏は2007年の佐賀北(佐賀)が最後だ。平成中期から全国的に「私高公低」の波が押し寄せるなか、鳴門高校の森脇稔監督は「世間一般論に甘んじてはいけない」と荒波に立ち向かう。
同校は旧制中学時代の1938年春に初めて甲子園のスコアボードに校名を刻み、1950年夏は準優勝、翌年の選抜で初の全国制覇を成し遂げた。1980年の春夏連続出場から後年は、甲子園と縁遠い時期を過ごしたが、2007年に森脇監督の就任を機に、かつて「うずしお打線」と称された輝きを取り戻している。監督就任後の甲子園出場回数は県勢断トツ1位の12回を数え、2012年から5年連続で選手権大会出場、3度の春夏連続出場の実績を誇る。その圧倒的強さは県下に留まらず、3度の全国8強にも輝いた。公立でありながら今や、甲子園常連校も侮れない存在だろう。
1961年徳島県鳴門市生まれ。鳴門から法政大へ進学。1985年から1995年まで母校で監督を務める。他校勤務を経て2007年から2度目の指揮を執る。社会科教諭。
食事と睡眠と鍛練で身体の大きさは甲子園トップ
全国制覇を目指す選手育成のキーワード。それは「体力」だ。森脇監督は「野球ってね、バスケやバレーなどの競技と比べるとバッテリー以外はそんなに辛い競技じゃないんですよ。でもね、体力がないと技術は成長しないんです。体力があれば技術が付き、自信ができて精神面も強くなる」とその必要性を語った。加えて、「体力のない子はケガをしたり故障したりしてしまう。そうすると、練習できないので技術が上達しない」と悪循環が生まれるリスクについても言及した。
継続的な技術向上のため同校では2017年から食トレに取り組んでいる。専門家からアドバイスされたバランスの良い食事と十分な睡眠時間の確保、そして日々の厳しい練習によって身体づくりを行っている。1年生と比較すると最上級生の身体には歴然とした差がある。森脇監督が「体力をつけるには練習をこなせる身体づくりが必要」と話す同校選手の体格を、今年の甲子園出場校と比較してみよう。
春の選抜大会では、徳島県が定める感染防止対策に従い前年11月から対外試合ゼロの〝ぶっつけ本番〟で聖地に足を踏み入れた。だが、大阪桐蔭の強力打線を最も苦しめ、わずか3失点に抑える善戦をやってみせた。このとき同校のベンチ入り選手18人の平均体重77・6キロは出場した全32校中、大阪桐蔭に次いで2番目に重かった。
さらに、暑さで瘦せてしまう夏場の選手権大会でも同校は平均体重をキープしており、出場した全49校のうち4番目に重いベンチ入りメンバーだった。ただし、身長180センチ以上の選手が2人しかベンチ入りしていない同校に対し、1番重い県岐阜商や2番目の大阪桐蔭は同条件の選手が7人もベンチ入りしている。平均体重が重くなるのは当然の結果かもしれない。そのため、身長に対して肉付きの良い体型であればあるほど数値が大きくなるBMI指数で3校の平均値を比較すると、大阪桐蔭は25・0、県岐阜商は25・3、同校は25・7でトップに立つ。つまり、同大会で一番恰幅の良い肉体に仕上げられているということだ。
甲子園常連校に勝る体格になりました!
Q.食トレではどういったことを?
ご飯は1日6~7合。野菜や鶏のムネ肉も食べて、お腹を空かさないようにしていました。しっかり寝ることも大事なので23時半には寝ていました。
Q.効果が出たと感じるところは?
元々細かったんですが、今では徳島県内の私立の選手より大きな体格になれました。春に大阪桐蔭と対戦したときも体格は変わらないと感じました。
Q.今後の身体づくりの目標は?
次のステージは身体が出来上がっている人が多いので、1年目から試合に出ることを目標に、まずは身体の大きさや強さで追い付けるよう頑張ります。
試合中の食事も意識し「一度も足をつってない」
炎天下の甲子園では今夏、私立の厚い投手層による継投策が目立った。肩肘への負担軽減や熱中症予防の観点から、球数制限や継投野球が叫ばれる昨今だが、公立校ではそうはいかない。森脇監督は「今まで一人で投げ抜いてきた代は多いです。賛否はあるんですよ。『どうして1人で投げさすんだ』と。でも、人数がいないのは仕方ないんです」と悔しさを滲ませる。
今年はエース左腕の冨田遼弥くん(3年)が夏の地方予選を全試合完投した。2013年も地方予選から甲子園8強までの全試合を、現ソフトバンクの坂東湧梧投手が投げ切った。人数が少ないからこそ、できるだけ長くマウンドに立ち続けられる丈夫な身体が必要だ。
身長178センチ、体重83キロの冨田くんは「(連投した地方大会で)1度も足をつっていません」と口にした。日々の食事に加え、試合中に「クエン酸を水に溶かして摂取したり、ゼリーやバナナでエネルギーになるものをとっていました」と語った。北谷雄一部長の的確なアドバイスに加え、食トレで学んだ知識で猛暑を乗り越えられたという。「ピッチャーとして1試合を投げ切ることは特別なことではないですし、練習試合でも投げ切ることを意識していたので、完投する体力が付いたのだと思います」と振り返った。
長年超えられていない甲子園8強突破へ。秋季徳島大会を制した新チームへと想いは受け継がれている。
調理法や節約術など
食トレは母の手腕も光る!
苦手な食材を食べさせた調理法は?
野菜を胡麻和えや煮物にして、息子が好きな和風テイストにしていました(三浦さん)。/徳島名物のフィッシュカツを使って魚を食べさせました(藤中さん)。
日々の節約術は?
例えばホウレン草は時期によって値段が高いので、冷凍カット野菜も利用しました(藤中さん)。/うちは農家さんから直接貰ってきていました(前田さん)。
母目線でのやりがいは?
身長に見合った体重になれるようにと願っていたので大きくなって嬉しかったです。(前田さん)。/乳飲み子にお乳をあげている感じです(三浦さん)。
取材・文:喜岡 桜 写真:山田次郎
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