食トレmagazine 第10弾(公立学校特集) 長田高等学校
個別性重視の食トレで
故障しにくい身体づくり
2016年春、21世紀枠で甲子園初出場を果たした長田高校。創部100周年を迎えた今年は、夏の県大会で67年ぶりの4強入りを果たし、秋には初のプロ野球選手が誕生した。偏差値70を超える進学校野球部が文武両道を体現させた方法とは。
半世紀以上前の実績を更新する成長ぶり
阪神淡路大震災による被害が最も大きかった神戸市長田区。暗澹とした日々を過ごした被災者にとって、長田高校の文武における活躍は「復興の光」だ。毎年、東京大学や京都大学へ多くの生徒を現役合格させる県内屈指の進学校。一方で部活動も、全国レベルの山岳部を有し、空手部の成長も目覚しい。野球部は震災からわずか3年後の1998年春に県8強の成績を収め、上位戦線へ返り咲いた。2016年春には念願の甲子園初出場を決め、一昨年は70年ぶりの秋季近畿大会への出場権を掴んだ。過去の記録を塗り替え続けられるほどの成長をどのように遂げたのだろうか。
同校を率いて15年目の永井伸哉監督は「伝統も大切ですが、昔からのやり方を継続していくだけでは甲子園にもう一度出ることはできない」と断言する。激戦区を制するため、同校の選手が送る日常生活の傾向を分析し、数年前から食生活の見直しに着手していた。
1972年兵庫県神戸市生まれ。長田から筑波大へ進学。スポーツメーカー勤務後、1999年から教員に。他校勤務を経て2008年から母校の監督に就任。社会科教諭。
増量組も減量組にも個々に応じた食トレが大事
「うちは昔から〝痩せ型〞の子が多かったんです。特別厳しい練習をしているわけでもないのに、どんどん細くなって」。
その原因は運動後に必要な食事量を摂取できていなかったからだ。同校は選手の大半が部活を終えると塾へ向かう。夜ご飯は道中のコンビニで買ったおにぎりや菓子パンを1つ、2つ食べるだけ。塾の最中にお腹が空くが、帰る時刻には空腹感が絶頂を超えて胃が食べ物を受け付けない。帰宅後は一日の疲労で即就寝。野球と勉強の両立を頑張れば頑張るほど体重は落ちていった。
そこで、塾を継続しながら「とにかくたくさん食べること」を意識した食事改革をスタート。練習後にみんなで同じ弁当を食べたり、保護者に2リットルの弁当を持たせてもらうなど試行錯誤を重ねた。選手たちからも声が上がり、自主的に食堂に集合して弁当を食べるなどの主体的な取り組みも見られるようになった。
今秋のドラフト会議でDeNAから5位指名を受け、同校初のプロ野球選手になった卒業生の橋本達弥投手(慶應大)もたくさん白米を食べた1人だ。永井監督は「入部当時は小鹿みたいな細い足だったんですよ。体重も58キロくらいしかなくてね。でも、74キロまで体重を増やせたんです」と、プロの世界へ挑む教え子との3年間を回顧した。
食事改革により選手たちの身体はある程度大きくなったが、「中には減量組もいるわけですよ。『控えめでいいぞ』としか言えなかったんです」と肩を落とす永井監督。2020年冬から専門家による食トレを導入したことにより体重の増減に加え、その他の意識すべき項目やその目安、必要な栄養素などが明確になった。「全員で同じものを食べるのではなく、個別性も大事なんだと気が付きました」と新たな道が開いた。
チームで体型が一番がっちりとしている一塁手の都賀剛くん(2年)は、身長166センチながら入学時点ですでに体重が75キロあった。「食事量は増えましたが、脂の少ないものや野菜をお母さんが用意してくれるようになりました」と食事の見直しが図られている。体重を維持しながら、目指すは体脂肪率の減少だ。「前は26%あったんですが、今は22%です。守備では動きやすくなって、届かなかった球に手が届くようになりました。脂肪から筋肉へ変えているので、打撃力低下の心配はありません。逆にボールが伸びている感じがします」と食トレの効果を実感していた。
補食習慣で気持ちにメリハリが生まれた
Q.食トレではどういったことを?
野球をするには体脂肪率を8~15%くらいにするのがいいと食トレで教わり、普段の食事、補食や練習を工夫して、8〜15%の間の数値でいられるようにしていました。
Q.効果が出たと感じるところは?
球速アップはもちろん、一番は球が重くなったことです。球威が増したことで、差し込んでバッターの後ろへファールが飛んだり、反応が変わってきました。
Q.野球以外への効果はあった?
休み時間に補食をとっていたんですが、気持ちがリセットされるというか。1時間毎にブレイクタイムができて授業への集中力が増しました。
食トレで効率よく壊れない身体へ成長
今夏ベスト4の成績を残して引退した3年生は、秋と春の県大会では結果が残せず悔しい思いをした世代だった。だからこそ仲間で食を共にすることに意味があった。永井監督は「食トレを通した一体感というか、みんなでしっかりやるんやという気持ちが生まれたように感じます」と変化について語った。また、「食トレを始めてから春まで、10人いる3年生が誰も故障しなかったんですよ。それまではレギュラークラスの選手が必ず大会で欠けていましたが、スターティングメンバーがある程度固定できて、そのまま夏に挑めたのは大きかったですね」と4強入りの秘訣を明かした。
ご飯の量だけを意識して身体を大きくすると、俊敏性などのいわゆる「キレ」を失ったり、腰痛などの故障を引き起こしたりする可能性がある。同校は今、食トレで効率良く強い身体を育むことができている。「いろいろやってきて、最後にここに辿り着きました」と安堵の表情を浮かべた永井監督。選手たちは夏へ向けてもうひと回り大きくなれるよう、今日もおにぎりを頬張る。
大きくなっていく姿に達成感
受験も強い身体で乗り切る!
日々の食事で気を付けたことは?
1日に必要な炭水化物を摂るために、お弁当と一個100gのおにぎりを3個持たせていました。苦手なチーズは、食べやすいようにスライスのものを用意しました。
お子さんに生まれた変化は?
食トレを始めて1ヶ月で体重が5kgも増えていたんです。大きくなっていく姿を見ると「やった!」と嬉しくなりました。風邪を引きにくくなったとも思いました。
受験に向けてのサポートは?
引退したのでご飯の量を減らしたら、少ししぼんでしまいました。でも、摂る栄養素は変わらないように気を付けているので、冬も乗り越えられると思います。
文:喜岡 桜 写真:山田 次郎
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